名古屋地方裁判所 平成8年(わ)1384号 判決
被告人
一
法人の名称 有限会社ヘルパーサービス金澤
本店所在地
名古屋市中村区烏森町五丁目四三番地
代表者
伊藤博之
二
氏名 伊藤倫子
年令
昭和一五年一月一三日生
本籍
愛知県春日井市白山町七丁目四番地の一七
住居
名古屋市中村区烏森町五丁目四三番地
職業
会社員
検察官
川北哲義
弁護人
城正憲(主任)、浅賀哲
主文
被告人有限会社ヘルパーサービス金澤を罰金四、五〇〇万円に、被告人伊藤倫子を懲役一年八か月にそれぞれ処する。
被告人伊藤倫子に対し、この裁判確定の日から四年間刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人有限会社ヘルパーサービス金澤(平成六年四月二日以前は「有限会社金澤」。以下、「被告人会社」という。)は、名古屋市中村区烏森町五丁目四三番地に本店を置き、家政婦紹介業等を目的とする資本金一、〇〇〇万円の有限会社であり、被告人伊藤倫子(以下、「被告人伊藤」という。)は、被告人会社の代表取締役として、その業務全般を統括していたものであるが、被告人伊藤は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により、所得の一部を秘匿したうえ、
第一 平成三年一二月一日から平成四年一一月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一億四、七七三万四、四一二円であり、これに対する法人税額が五、四五六万七、五〇〇円であるのに、平成五年一月一九日、名古屋市中村区太閤三丁目四番一号所在の所轄名古屋中村税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一、三七五万二、三〇二円であり、これに対する法人税額が四三二万四、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を経過させ、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額との差額五、〇二四万三、三〇〇円を免れ、
第二 平成四年一二月一日から平成五年一一月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一億四、九六八万六、八二七円であり、これに対する法人税額が五、五三〇万二、五〇〇円であるのに、平成六年一月一八日、前記名古屋中村税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一、八四五万三、三一五円であり、これに対する法人税額が六〇九万二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額との差額四、九二一万二、三〇〇円を免れ、
第三 平成五年一二月一日から平成六年一一月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一億四、七六六万九、八一五円であり、これに対する法人税額が五、四五四万五、七〇〇円であるのに、平成七年一月一七日、前記名古屋中村税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が二、〇七二万六、六七八円であり、これに対する法人税額が六九四万二、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額との差額四、七六〇万三、六〇〇円を免れ、
もって、それぞれ不正の行為により、被告人会社の法人税を免れた。
(証拠)
括弧内の番号は証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。
全部の事実につき
1 被告人伊藤の
(1) 公判供述
(2) 検察官調書七通(乙6ないし12)
2 被告人会社代表者伊藤博之の
(1) 公判供述
(2) 検察官調書二通(甲19、21)
3 真鍋博幸作成の査察官調査書九通(甲7ないし15)
4 履歴事項全部証明書(乙1)
5 証明書三通(甲1ないし3)
6 電話聴取書(甲16)
第一の事実につき
7 真鍋博幸作成の査察官調査書(甲4)
第二の事実につき
8 真鍋博幸作成の査察官調査書(甲5)
第三の事実につき
9 真鍋博幸作成の査察官調査書(甲6)
(法令の適用)
罰条 各事業年度毎に、法人税一五九条一項(被告人会社については、更に同法一六四条一項。情状により、同法一五九条二項を適用する。)
刑種の選択(被告人伊藤につき)
懲役刑
併合罪の処理
被告人会社につき 平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段、四八条二項
被告人伊藤につき 同刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重)刑の執行猶予(被告人伊藤につき)
同刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件ほ脱税額は、合計約一億四、七〇〇万円もの多額にのぼり、ほ脱率も、判示第一の犯行では九二パーセントを、判示第二の犯行では八八パーセントを、判示第三の犯行では八七パーセントをいずれも超える高率である。
また、犯行態様をみても、予め被告人伊藤が帳簿に計上する月・病院毎の紹介家政婦数及び紹介手数料の額を具体的に指示するなど計画的であるばかりか、税務調査に際しては、職業安定法上の「守秘義務」に名を借りて、真実の家政婦紹介実績を記帳した帳簿の閲覧を拒否して脱税の発覚の防止を図るなどしており、甚だ悪質である。
犯行の動機にも、酌むべき点は全く見出されない。
そして、被告人伊藤は、本件各犯行を自ら積極的に計画し、脱税の具体的な方法を指示するなど各犯行を主導している。
ほ脱額が多額で悪質な脱税行為が著しい非難を受けるのは当然であって、利己的で身勝手な動機から本件のごとき悪質な犯罪を主導した被告人伊藤の犯情は悪く、その刑事責任は重いというべきである。
被告人会社と被告人伊藤の刑事責任は、決して軽視できないというべきである。
しかし、一方では、被告人会社及び被告人伊藤には本件と同種の事案の前科がないこと、被告人会社が経理体制を改善し、再犯を防止するための措置を一応講じていること、被告人伊藤及び被告人会社代表者がともあれ反省の態度を示していること等の情状も認められる。
そこで、これらの情状を斟酌して、被告人伊藤に対する刑の執行を今回に限り猶予することとし、主文のとおり量刑する。
(裁判官 川原誠)